小さな林業の始め方

【木曜更新】オットの連載 小さな林業の始め方 ⑭マーケットインかプロダクトアウトか、林業にまつわる経済のお話(後編)

yasu
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こんにちは、ななみのオットのヤスと申します。46才で脱サラし、高知に移住して自伐型といわれる小さな林業を5年間実践してきた本人の目から見た、その林業の世界を紹介したいと思います 

林業と市場経済との折り合いのつけ方

林業はどのような考え方で市場経済と折り合いをつければいいのか。

最終的な回答は、正直なところまだ分かりません。

ただ、単純にプロダクトアウトやマーケットインなどの従来の考え方で市場経済のシステムに組み込まれても未来はないと考えています。

林業経営も十人十色で、優れた林業経営をされている篤林家もいらっしゃいます。しかし、たどってきた道や置かれた環境も違う中で、全く同じような林業経営は不可能です。

そのような中で私自身は何を拠り所にしたら良いのか。その考察をしていきます。

まずは2つの考え方に可能性を求めたいと思います。

その1)持ちつ持たれつ

ひとつは「持ちつ持たれつ」という考え方。

自然環境の中で、生物はお互い「持ちつ持たれつ」の関係で生態系のバランスを維持しています。

人間社会と自然環境も共存していくためには「持ちつ持たれつ」でなければなりません。
一方が持ちすぎると両者のバランスが崩れ、結局は人間社会も自然環境もどちらも共倒れということになります。

人間社会の中においてもそう。
都会と田舎、大企業と中小企業、先進国と新興国・途上国、全てにおいて、どちらか一方だけが繁栄したら、いずれバランスが崩れ、全体が滅びてしまいます。

「持ちつ持たれつ」を言い換えるならば、共存共栄、相互理解。

例えば今のコロナ禍において、先進国だけにワクチンが行きわたってコロナの封じ込めに成功したとしても、途上国で蔓延し、それがやがて変異してより強力なウイルスとなって再び先進国を襲う可能性だってあるわけです。

話がちょっと広がり過ぎましたが、林業における経済活動に当てはめると、木材の生産者と消費者も「持ちつ持たれつ」の関係が持てないだろうかと思うのです。

林業というのはただ単に木材を生産するだけではありません。
山の手入れをすることによって、自然環境を健全に保つ役割も担っています。
健全な森林は人々の癒しの場にもなります。

また、林業を持続可能にし、将来世代にもその恩恵を受けられるようにするには、山を健全に保つのと同時に、木を育てること(植林、育林)や、搬出するためのインフラ整備(道作り)など、すぐには経済活動に結びつかないことが大半です。

そうした公益的な役割も担った上で木を伐採したことの対価として、消費者は生産者が林業活動を続けられるような価格で木材を購入する

これこそ、木材の生産者と消費者との間の「持ちつ持たれつ」の関係性だと思います。

「持ちつ持たれつ」を実現する方法

「持ちつ持たれつ」を実現するいくつかの方法とその可能性について検証してみたいと思います。

1. 森林認証制度

森林認証(※)を受ければ、コンプライアンス上のお墨付きが与えられ、一定の付加価値にはつながります。

ただ、複数の認証制度があり、手続きの煩雑さ、費用負担、一般的な認知度の低さなど課題も多く、ある程度の経営体力がなければ、認証と維持管理は難しいといえるでしょう。

そうなると小規模事業者にとっては馴染みにくく、大手と中小の格差を助長する要因にもなりかねません。

例えば、個別事業者単位ではなく、地域単位、自治体単位で認証単位を設けて管理運営機関を設ければ、その格差はなくなると思いますが、そこにいたるまでの合意形成には長い道のりが必要です。

※森林認証制度
独立した第三者機関が環境・経済・社会の3つの側面から一定の基準をもとに適切な森林経営が行われている森林または経営組織などを認証し、その森林から生産され木材・木材製品にラベルを付けて流通させることで、持続可能性に配慮した木材についての消費者の選択的な購買を通じて、持続可能な森林経営を支援する民間主体の取り組みです。
出典:フォレストパートナーシップ プラットフォーム

2. 個別の事業者による関係づくり

優れた構想力、コミュニケーション力のある一部の先駆的な事業者は、すでに消費者との間で持ちつ持たれつの良い関係性を築いていると思います。

例えば、木材生産、製材加工、製品販売などを自社で運営、あるいは関連事業者同士が強い連携のもとで、木材流通の川上から川下までを一気通貫の体制で運営している事業者などがそうです。

3. 補助金の活用

上記の2つは実現すれば素晴らしいですが、まだ時間がかかること、また、個々の事業者の属人的な能力に左右される側面があります。

しかし、実は消費者の誰もが、林業者と「持ちつ持たれつ」の関係性を築くことのできる制度に、無意識のうちに大いに関与しているのです。

それは行政から林業事業に交付される補助金制度です。

前編でも触れましたが、林業に対しては、これまでも行政による様々な助成が行われてきました。
補助金の原資は、いうまでもなく消費者たる国民の税金です。
つまり、税金、補助金というフィルターを通して、関節的に生産者と消費者が「持ちつ持たれつ」の関係をつくることができます。

しかしその助成内容を見てみると、その大半は木材の生産拡大と利用促進を主眼としたもので、環境保全や森林の持つ多面的機能を守るための助成はごくごく一部です。

もちろん、木材の生産拡大も利用促進も林業界・木材関連業界にとって重要ですが、増産一辺倒になってしまったら、そのしわ寄せを受けるのが森林です。

さらに根深い問題は、“国や林野庁”と、我々のような“小規模林業事業者”の間で、環境保全に対する考え方が必ずしも一致していないと感じられる点です。

人知で抑えこむやり方か、なるべく自然の摂理や法則に沿った方法か。

もちろん人知で抑えこむ必要がある箇所はあるかもしれない。しかしなぜそうなったかという根本原因の理解なしに進めてしまっていいものか。

どちらにどう補助金を活用すべきか。ここは改めて問い直したい。

血税を通じて関わっている林業の補助金。皆さんにとっても決して他人事ではありません。

その2)「共創」

林業はどのように市場経済と折り合いをつければいいのか。

もう1つの考え方は「共創」です。

経済活動における「共創」とは、「企業が様々なステークホルダーと協働して新たな価値を創造すること」です。

この共創という言葉は現在様々な形でビジネスの世界で使われるようになっていますが、私はその本質は、「生産者(製品やサービスの供給者)と消費者(製品やサービスの需要者)が協働で新たな価値を創ること。そしてその価値は社会の課題解決につながるもの」にこそあると思っています。

「共創」の好例

最近、林業界においてこの「共創」の画期的な好例がありました。

発端はある林業従事者のブログでした。

この林業従事者が、林業に適した2トンダンプカーが生産されなくなったことによる窮状をブログで訴えたところ、多くのネットユーザーの共感を呼び、様々な意見やアドバイスが寄せられ大きな話題となり、ついにはメーカーである日野自動車を動かし、とうとう新しい2トンダンプカーの開発につながったという話です。

詳しくは発端となったブログと、その解説記事をお読みくさい。

ブログ:「吉野の杣人奮闘記」
解説記事:「知られざる林業危機を支えたネットの力」

日野自動車のような大企業が、たった1人の消費者の声をきっかけに動くのはめったなことではありません。
その陰には、「実は発展途上国では悪路走破性の高いトラックの需要がいまだ大きい」という経済的側面が明らかになったこともあるでしょうが、このタイプのトラックが国内の森林整備に欠かせないという社会的意義も見過ごせなかったという事情もあったのではと思います。

そもそもここまでネットで話題になったのも、このブログの発信者が実践している小規模林業の社会的意義に共感した人々が、実はとても多かったからではないでしょうか。

国産木材の繁栄には何がインセンティブになるか

こうして、「持ちつ持たれつ」や「共創」によって木材流通の川上・川下で良い関係が出来たとしても、それはごく一部の関係者のみにしか享受されません。

林業、ひいては国産木材の大きな市場を形成するには、なにか強力なインセンティブが必要です。

これまでの資本主義経済システムの中では、経済的な利益が最大のインセンティブでした。それはマズローの欲求5段階説における第4段階までの欲求を満たすことでもあります。

出典:DIME

しかし、もはや経済的な利益の追求だけでは地球は持たない、ということは明々白々です。

こうなったらマズローの欲求5段階説の「自己実現の欲求」の追求にかけるしかありません。

自己実現欲求を林業・木材流通の中で見出すとしたら、それは「世界とつながっていること」だと思います。

林業者は良い山を作り、次世代につなげることでその地域の過去・現在・未来とつながることができます。
また、良い山は良い川をつくり、良い海をつくります。こうして地球環境の健全化に寄与することで世界ともつながることができるのです。

木材加工・流通業者は身近で伐採された木材を扱うことで、エネルギー消費を大幅に減らすことが出来ます。ウッドマイレージ(※)の考え方です。
そして、環境にも配慮した手法で伐採された木材を扱うことで、林業者と共通のつながりを持つこともできます。

※ウッドマイレージ
木材の輸送量と輸送距離を乗じ、輸送時の環境負荷を数値化したものを指す。「ウッドマイルズ」は、木材の産地から消費地までの輸送距離のこと。「ウッドマイレージ=ウッドマイルズ(㎥)×木材の輸送量(km)」によって算出される。

出典:ELEMINIST

エンドユーザー(最終消費者)は、身近で環境に配慮した手法で伐採された木材を使った製品を買うことで、木材加工・流通業者、林業者と共通のつながりを持ち、かつ環境保全に貢献することができます。

最初から全ての人がこのインセンティブに価値を見出すとは限りません。
マズローの1~4段階の欲求を充足するのに精一杯の人が大半かもしれない。

でも、初めは少数からでいいと思います。

例えば、ハイブリッド車が普及した経緯をみると、最初から大衆に受け入れられたわけではありません。

最初はイノベーターやアーリーアダプターと言われる、流行や世の中の動きに敏感な極一部の人達に受け入れられたにすぎません。
その中にはハリウッド俳優などのインフルエンサー(社会的に影響力のある人)もいました。
その後、ガソリン価格の高騰、環境意識の高まりなどの社会環境の変化を背景に徐々に普及していき、最後にはエコカー減税という国の助成も加わり、爆発的な普及につながります。もちろん、その裏には自動車関連企業のたゆまぬ企業努力があってのことです。

まとめ

国産木材にも同じような可能性がないとは言えません。

しかし、そこに到達するにはまだ多くの課題があります。

例えば重要なのが、いつ、誰が、どこで生産した木材かを追跡可能にするトレーサビリティです。これにはICT(情報通信技術)も必要となるでしょう。

小さな林業においては生産性の向上も大きな課題です。
多くの現場では、丸太の運搬に、数十年前に開発された運搬機械に未だに頼らざるを得ない状況。
これでは生産性が上がらないばかりか、安全性の面でも憂慮されます。
先ほど紹介した2トンダンプカーと合わせて、高性能な小型運搬機械の開発も待たれます。

課題は山積です。

それでも、環境保全や持続可能性という切り口から国産材の価値を底上げし、かつ、品質や用途に応じて様々な国産材利用の可能性を探ることで、業界全体を盛り上げることも可能ではないか。

そのような想いで、私は粛々と自分に出来ることを進めていきます。

それではまた次の記事でお会いしましょう。

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