林業をする上でまず必要となるのが施業現場=山です。
日本ではたいていの林業現場は山にあります。
林業現場を単に「山」と言うことが多いのもそのためです。
移住して林業をしようというとき、移住先に全く地縁のない移住者(いわゆるIターン)が林業を始める上で最大のハードルとなるのが、この林業現場である「山」の確保です。
加えて、移住当時の私は「林業の実績」もゼロでしたから、難度はたぶん最大級でした。
今回はその話をしたいと思います。
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山を確保する方法
山を確保する方法には大きく二通りあります。
山を買う(山主になる)か、山を借りる(山の管理を受託する)か。
私は、高知県に移住し、林業修行を始めた当初は買うことを中心に山の確保を考えていました。
その最大の理由は、そもそもが、「全くのど素人に山を貸してくれる人などいるわけない」と思っていたからです。
また、林業の先輩達からの助言も、「買う」ことへの後押しとなりました。
その根拠は
- 今、木の値段が相対的に安いから、山の値段も安い(つまり買い時である)
- 借りている場合、山主さんの意向次第で借り続けれられるか分からない
というものでした。
ちょっと田舎にいけばいたるところ山だらけですし、そこには、林業に適していると思われる人工林も多くあります。
なので移住当初は、「ある程度の資金さえあれば、山の購入にはそれ程時間は時間はかからないだろう」と考えていました。
しかし、現実はそう簡単にはいきませんでした・・・
山を買うことが意外と難しい理由
仮にお金があっても、良い山が買えないのはなぜか。
まず、山林は住宅と違って「不動産屋さんに行けば買える」というものではなく、一般の人が売買に参加出来る市場がほとんどありません。40~50年前ならいざ知らず、当時から比べると木材価格が4分の1とも5分の1とも言われる現在では、一般的な山の市場価値が低いゆえに、流通システムも確立されていないのです。
それでも売買したいとなると、必然的に人づてに紹介してもらう、ということになります。
そこで私も、移住1年目でまだ知り合いも少ない中から厳選した信頼出来る方に相談することから始めました。
するとポツポツと少ないながら情報も入り、実際に売りに出てる山を見に行ったりもしました。
こうやって山は買えるんだなぁ、と思ったまでは良かったのですが、当然「山であればなんでもいい」わけでもないのです。
林業をするのに条件の良い山、というのはなかなか現れません。
「自伐型林業をするのに条件の良い山」とは?
- 植林された木が多く残っている
- 一定の面積にまとまっている(必要最低限の広さには諸説あります)
- 山に道を入れられそうである
- 公道に面している
- 原木の売り先(木材市場など)が近くにあること※個人的見解も含まれます
それもそのはずです。
もしそんな好条件の山があったら、真っ先に森林組合や林業会社に情報が入り、すでに着手されているか話が進んでいるに違いありません。
さらに、以下に挙げるような日本の山林における特殊事情もあります。
- 日本の山は里山に近いほど、相続で所有が細分化していることが多い
- 自治体による地籍調査(山の所有者と境界を確定する)が不十分な地域も多い
これらのことが山の所有者と境界の特定を困難にしており、山の売買を阻害する要因となっているのです。
こうして、だんだんと厳しい現実がわかってきました。
それまでに様々な林業研修を受けたり、知り合いの現場を手伝うことによって、ある程度の知識や技能は身に付いてきてましたが、自分の現場を持たないことには仕事になりません。
移住1年目の終わり頃になると、早くも焦ってくるようになりました・・・
山を借りることができた
気持ちも差し迫っていた、そんなときです。
世の中には奇特な方がいるもので、よく知らないド素人に山を貸しても良いという方が現れたのです。
灯台下暗しとはよく言ったもので、その方は同じ部落に住む山主さんでした。
友人を介してお会いしてからすぐに話が進み、たまたまユンボも補助金で借りられことになり、早速その山で道作りを始めることになりました。
その山は、大半が広葉樹に囲まれていて、すぐに木材生産による収入につながるというわけにはいかない山でしたが、当時の自分にとっては、家から近くて、しかも山主さんが寛容である程度自由に施業させてもらえる場所があるというのは、何より本当にありがたいことでした。
必死で技術を磨き、なんとか業として成り立つよう知恵を絞り、秋冬の間は1日でも多く山に通いました。
ある程度自分で思い描く道作りも出来るようになり、理想とする山作りへの手応えも感じられるようになってきた時には、4年目のシーズンが過ぎようとしていました。
1つの山が次の山を呼び寄せる
そのような状況を察してかどうか、ちょうど4年目のシーズンも終わりに近づいた頃、同じ山主さんから、別の山の話が持ち上がったのです。
そこはそれまでの現場よりも林業をするのにも条件が良く、当面の間仕事に困らないだけの面積もあり、願ってもない山でした。
そして5年目の今シーズン、この新たな山で新たなスタートを切りました。
本当に嬉しい展開です。
山を借りることの意外なメリット
今でも自分の山が欲しい(買いたい)という思いはありますが、実は以前ほどのこだわりはありません。
なぜなら、「山を借りること」にもメリットが多いと気づいたからです。
山はいくら私有であっても、そこには地域の人達共有の財産という側面もあります。
地域の水源になっていたり、災害を防ぐための保安林であったり、猟をしたり、リクリエーションの場であったり・・・
山には様々な機能があり、完全に私物化するのもむしろ困難ともいえます。
山の所有者になったからといって地域の事情を知らない者が勝手なことを始めたら、地域住民とのトラブルに発展する恐れすらあるでしょう。
私が取り組んでいる自伐型といわれる小さな林業は、基本的に施業場所を固定し、何年もかけてこまめに管理していくことによって、そこから長期的に収益を得るのと同時に山を健康に保つことを目指すのが大きな特徴です。
地域密着型とも呼ばれていますが、それゆえに、地域住民とのトラブルは死活問題にもなりかねません。
山を借りていれば、山主さんが「地域と林業従事者」の間の緩衝材となって両者の軋轢を未然に防ぎ、スムーズな林業を手助けする役割を担ってくれるのです。
また、複数の目によるチェック機能という側面も重要です。
仮に自分の所有林だったら、もちろん所有林だから大事にしようと思う反面、自分の山だから、「まあ、(この程度で)いっか」となる可能性もないとはいえません。
私は、身の回りの整理整頓にも無頓着な、元来ズボラな面もあるので、なおさらです。
しかし、お借りしている山では、無責任なことはできない。
山主さんや地域の目というチェック機能は、自分のためにも大事なのです。
そして一番大きいメリットが、山主さんとの関係性から得られるもの。
地域の人間に山の管理を委託するということは、山主さんがそれだけその山や地域に対する愛着や責任を持っているということだと思います。
その山主さんから地域や山の変遷を学ぶことによって、単なる林業従事者としてだけではなく、地域の暮しづくりを担う一員としての自覚が深まることを実感しています。
山主さんと山の将来について語り合うのもまた楽しい。
そんな山主さんにも喜んでもらえる山仕事をすることが、良い仕事をするモチベーションになることもあるのです。
いずれにしても山作りは、到底自分の代で終わるものではなく、所有していても次世代には誰かの手にゆだねることになります。
それならば所有しててもしてなくてもいいのではないか、と。
縁あって自分の手に今ゆだねられている山を、自分の理想のやり方で精いっぱい大切に手入れして多くの人に喜んでもらいたい。そんな風に考えています。
とはいえ、「山を買った方が良い理由」のところでも述べたように、山をお借りすることにはリスクも当然あります。
山主さん側の事情、あるいは気持ちが変わったり、あるいはお子さんの代に替わって方針がガラリと変化したり・・・
急に施業現場がなくなったら、色んな意味で途方にくれます。
なるべく不安定になるリスクを避けるためにも良い山作りに励み、普段から少しでも山主さんの理解を得られるよう努力することは当然重要になります。
まとめ ~ 山との出会いに思うこと
こうして5年間、山をお借りして林業をやってきて思うのは、山との出会いはつくづく「縁」だなぁということです。「運」と言い換えてもいいかもしれません。
なので、「誰でもこうしたら山が買えるよ!借りられるよ!」という再現可能な”ノウハウ”とは言えません。
ただ、ここで挙げた例は、民間における協力者(山主さん)の存在が、自治体の支援が手厚くない地域において自伐型林業に参入する1つのカギになることを示しているとも言えます。
ここで冒頭の「山は買うべき?借りるべき?」という問いに戻ると、
”買える状況のときに、買いたい山に出会えたら、買ったほうがいい”
これが現時点での私の答えになるでしょうか。
そしてこうも思います。
もしかして、山探しの最良の方法は、目の前の山に対して真摯に取り組み、そこで技術を磨き、良いものを残すことではないか。
それを見た人が、自分の山も管理してほしい、あの人になら売っても良い、と思ってもらえることではないか。
そしてそのような縁によって山というのは受け継がれていくものではないか、と。
ではまた次の記事でお会いしましょう。