林業は、基本的に山に生えている木を伐って売るのが仕事です。
つまり、「出来るだけ多くの木を伐って、お金を稼ぎたい!」と思うのが普通のはず。
でも私は、「できるだけ木を伐らずにおきたい」、と考えているのです。
それはなぜか。
1.樹木が持つ重要な役割
一般の人の中には、「森は木がまばらに生え、明るい方が良い森だ」と考える方も多いと思います。
それは公園などをイメージしているのかもしれません。
しかし公園は、公園用の樹木を植え、しっかりと管理されているから、木がまばらに生えていても明るく気持ちの良い空間が出来るのです。
自然は公園のようにはいきません。
山で同じようなことをすると、どうなるか。
林業用語で”強度間伐”と言いますが、木がまばらになるほど伐ると、山は確かに明るくなります。空が良く見えます。見晴らしも良くなります。
しかし、元々、シダ類や笹類が生えやすい場所だと、忽ちそれらに覆われ、他の樹木が生えづらい環境になってしまいます。
地域や場所によって状況は異なるのでこれらはあくまで一例ですが、要するに、生えてくる樹種をコントロールすることは非常に難しいのです。
道(作業道)にも、毎年草刈りしなければならないほど、雑草が道を覆い隠します。
雑草が生えるのはまだ良い方かもしれません。
地面がむき出しになった状態で大雨が降ると、表面の土砂を洗い流し、
最悪の場合は土砂災害につながってしまいます。
(写真はイメージです)
そして、残った木はどうなるか。
日本は台風多発地帯で、凄まじい風が入ります。
突然支え合う木がなくなれば激しくゆれ、繊維断裂を起こし、商品としての価値を損ないます。
最悪の場合、木が倒れてしまいます。
(写真はイメージです)
木の根は、水を吸い上げると同時に周りに水を供給する役割があります。いわば、山の貯水、涵養という重要な機能を担っているのです。
なのに木がなくなれば貯水涵養機能が衰え、洪水や渇水の原因になります。
長年、森林の生態と造林に関する研究に従事された藤森隆郎さんの著書「『なぜ3割間伐か』林業の疑問に答える本」によると、
森林(林分)の発達段階に応じた機能の変化を見ていくと、生物多様性の保全機能、水源涵養機能、表層土有機物量、森林生態系の炭素貯蔵量、いずれも若齢段階(林木が50年生くらいまで)では最も低く、成熟段階(50年生以降)から徐々に高くなっていく
そうです。
逆に純生産速度(林木の成長速度)は若齢段階をピークにその後徐々に減退していきます。
つまり、人工林で現在盛んに行われている50年サイクルで皆伐(生えている木を一斉に伐ってしまうこと)し、造林を繰りかえすことは、木材生産を最も効率的に行っているように見えて、実は森林の持つ多面的機能を十分発揮出来ない状態を続けていることになります。
50年生くらいで皆伐や強度間伐してしまうのは、「もったいない!!」と言うほかありません。
さらに、最近の研究結果によると、樹木はお互いに根を通じて情報を交換したり、栄養を補給し合っていることが分かってきたそうです。
ドイツの森林管理官の著作で世界的ベストセラーとなった「樹木たちの知られざる生活」にその辺りのことが詳しく紹介されています。
ここまで大事な働きをする樹木を、そうそう簡単に伐ることなどできません。
2.安い材価
これには2つの意味があります。
木材価格は1980年をピークに低迷を続け、現在はピークの約1/4~1/3の価格にまで落ち込んでいます。(出典:林野庁ホームページより)
つまり市場全体として木材価格が低いということです。
これには様々な要因があると思いますし、木材需要や流通の仕組みについてはまだまだ勉強不足なので一概には言えませんが、市場全体の木材価格が低いということは、需要サイドが、質より量を求める傾向にある為だと考えられます。
加えて、私のような零細の新規参入者は、最初から高品質な木材を中心に生産することなどできません。
私が手掛けるのは、手入れの遅れた山林が中心です。
まずはそこに道を入れて、将来的に良い木を育てるために、価値の劣る劣勢木から間伐する必要があります。
すると、最初のうちに伐り出せる材は、並~低質材が中心です。
つまり、先に上げた「市場全体の材価」に加え、「個別の材価」も低い、ということになります。
これら並~低質材を中心に、質より量を求める現在の需要に合わせた木材生産業でやっていこうとすると、小規模事業者では到底太刀打ちできません。
ではどうすれば良いか。
私のような新規参入の小規模事業者が生き残るための戦略は3つだと思っています。
- 木材価格が上がるのを待つ
- 良質材を生産できるようになるまで待つ
- 木材の新たな需要を開拓・創出する
どれももちろん簡単なことではありません。
新たな需要を創出するには、林業家同士、製材所を始めとした木材流通の川中・川下の業態や他業種との連携、あるいは、6次産業化などによる創意工夫も必要です。
いずれにしても、すぐにどうこう出来る話ではなく、時間がかかるかもしれません。
現在の私はというと、
- 複業(カフェ経営)で生活を支え
- 補助金を頂きながら山に道をつくり
- 最低限の間伐を行い
来(きた)るべき時のための基盤整備を進めています。
山にいくら木が残っていても在庫費用はかかりません。木もすぐには劣化しません。
適切な管理を行えば、質・量ともに底上げすることも出来ます。
まとめ
今、あまり木を伐りたくない理由がお分かりいただけたでしょうか。
ただ1つ問題があります。
もともと、私が林業を志したのは、木材の自給率アップに貢献したかったことも理由の1つでした。それが現状ではあまり貢献出来ていません。そのジレンマはあります。
一方で、自然を壊してまで木を伐るのは本末転倒だし、経済的に成立しなければ持続出来ません。質より量を重視した市場によって木材自給率が上がったとしても、果たして環境保全や長期的な経済性の観点から良いことなのか、という疑問は残ります。
今後もこのジレンマを抱えながらの試行錯誤は続きます。
それではまた次の記事でお会いしましょう。
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