「金原ひとみ」という名前は当然昔から知っていたのだけれど、何せ20歳で芥川賞を取ってしまうような早熟の天才の書くようなものは、わたしには無関係な気がしていて、なかなか読む気がしなかった。
しかもその芥川賞受賞作が「蛇にピアス」というおどろおどろしいタイトルだったこともわたしをドン引きさせていた理由の1つだと思う。
それから20年以上が経過。
でもあちこちでやっぱり金原さんの作品は評価が高いし、加えてテレビや雑誌などのメディアで見かける彼女の姿に「蛇にピアス」的な感じは全くなく、どちらかというとナチュラルで爽やかな感じで、相変わらず気になる存在。
わたしの食わず嫌いもそろそろ卒業してもいい頃かと思い。今回なんとなく表紙がサイケでいい感じだったこの作品ー「ナチュラルボーンチキン」ーを手に取った。
(実際は Audible なので手には取ってはいない)
のっけから、主人公の45歳の女が毎日毎日同じメニューを自炊しているという、なんともわびしい描写から始まる。
ちょっと貧乏臭い(?)話が好きなわたしにとってはとてもいいスタートだった。
主人公は、自分と真逆の、奔放で人生楽しみ尽くしていて、ホストクラブに通い詰めている同じ会社の後輩と知り合う。
そこから、人間関係が何回転もしていき、何かが変わってくる。
死んだように生きていた主人公の過去も徐々に明らかになる。
決してミステリーではないんだけれども、「人に歴史あり」とでもいうのか、なぜ主人公がこんな生活を送っているのか、その謎が少しずつ解かれていく。
ごくごく普通に暮らしている人間の誰にもこんな過去の1つや2つあるんだよな、と思わされながら、映画を鑑賞するような気分で聞き終わってしまった。
言葉の運びがリズミカルで(これは Audible ならではと言うか、もちろん、ナレーターの技量によるところも、ものすごくある)、ある種の早口言葉のような文章の表現が心地よく刺さってくるようなところが、この人の文体の魅力だと思った。
あ、そこそんな言い方する?って、日本語の魅力を再発見するというか。
ところで正直なところ、主人公にはそれほど感情移入できたわけではなくて。
つらい過去があったことは理解するけれど、実在していたら、わたしはあんまり友達になりたくないな、ぐらいの一歩引いた感じではあった。
がしかし、その「友達になりたくない」部分が、わたし自身の中にもある、というのがまたぶっささるところなのである。
つまり、自分の嫌いなところを体現している主人公なので、これがまたイヤなんだ。
でも一方で、あ、誰でもこんな風にぐちゃぐちゃした感情ってやっぱりあるものなんだよな、と安心とまでは言わないけど、小さくホッとする部分もあったりして。
こういうことって、普段誰かと見せ合ったりしない「汚泥」みたいな部分で、かつ、そこを垣間見せることが小説の意義だと思うので、まさに小説らしい小説だと感じさせる作品だった。
今回は聴読だったけど、おそらく活字で読んでも全く飽きさせることのないエンターテイメントだと思う。
天才が40歳を過ぎ、シングルマザーとして色々な経験を積まれていることが、こうした円熟味を感じさせる作品に繋がっているんだろうなと。
彼女が60歳、70歳になった時にどんな作品を書くんだろうと、とても楽しみになってきた。





