唐突ですが問題です。
全産業の中で、労働災害発生率が最も高いのはどんな産業でしょう?
答えは、そう、林業です。
(しかも断トツで…)
厚生労働省が発表する、災害度合を示す指標に「千人率」というものがあります。
これは、労働者1000人あたり1年間に発生する死傷者数(休業4日以上)を表していますが、令和元年の産業別のこの数値を見てみると、全産業平均が2.2(人)のところ、林業はなんと20.8(人)と極端に高い数値になっています。
産業別 | 千人率(人) |
---|---|
全産業平均 | 2.2 |
林業 | 20.8 |
木材・木製品製造業 | 10.6 |
鉱業 | 10.2 |
林業はそれだけ危険な産業だということです。
私が始める際の大きな心配材料になっていましたし、この世界に入ってからも、林業現場での死亡事故を耳にする機会は少なくありません。
そのため研修などでも、安全講習に多くの時間が割かれ、しっかりと危険性を刷り込まれます。
では、実際どうなのか。
私が5年間自伐型林業に取り組んできた感想としては、
私は幸いにも、これまで林業現場で、怪我はおろか、一滴の血も流してません。
それはたまたま運が良かったからかもしれません。
でも、出来得る限り安全に配慮してきたのも事実です。
林業を語る上で「危険と安全対策の話」は避けて通れません。
今回はそのことをお話します。
CONTENTS
私が実践してきた安全対策
私が実践している安全対策は大きく3つあります。
その1 安全装備・防護ウェアの徹底
上はヘルメットから足元のブーツまで、基本的に林業用に開発された防護ウェアを使用しています。
愛用のヘルメット。
頭は当然のこと、チェンソーの跳ね返りや木くずから顔や目を守るフェイスガード、騒音から耳を守るイヤーマフなどもついた林業用のものです。
足元は、チェンソーブーツと呼ばれるチェンソーの切創からも足を守ってくれるブーツ。
特殊な素材でくるぶしまで覆ってくれて、とても安心感があります。
他にも、チェンソーの切創から脚を守るチェンソーパンツ、手を守るグローブなど、防護ウェアは様々。
私が林業を始めた5年前は、安全よりも動き易さを優先する林業家もいて、特にベテランの方に多かったように思います。
何しろ防護ウエアは大概重く、夏は暑く、高価ですから。
例えば、チェンソーブーツは厚底でずっしりと重く(サイズによりますが、片足で約920g 〜 約1,420g)、加えて1足30,000円程度と、高価です。
一方、昔ながらの地下足袋は軽く、ソールにスパイク付きのものだと傾斜もスイスイ登ることが出来ます。
しかも値段はブーツよりはるかに安く、3,000~4,000円程度です。
私も最初は地下足袋を履いていました。
しかし、チェンソーで足元を伐る事故が多いことを知ってからは、チェンソーブーツに変え、以来、その安心感から地下足袋には戻っていません。
防護用品は消耗品なので、値段が高いことは正直大変です、しかし、ここは惜しむべきではありません。
この5年間でも業界全体の意識はだいぶ変わり、現在は事業者に下肢の切創防止用保護衣等(チェンソーパンツやチャップス)の着用が義務付けられるなど、安全意識は年々高まっています。
その2 スピード・効率より安全を優先した施業
施業において、「スピード/効率」と「安全性」は、ときに排反することがあります。
そのようなとき、自分の技術に100%の自信がなければ(当面の間はないと思いますが)安全性を優先します。
(例えば、偏芯木を伐倒する際に、ロープで牽引する控えをとったり。一人作業だと結構手間になります)
私は普段、1人で施業しています。
「1人だと危なくないですか?」と聞かれることが多いですが、1人の方が危険だとは私は思いません。
1人作業のデメリットは、何かが起きた際に、対応出来ない、もしくは対応が遅れてしまう可能性が複数人施業よりも高いということだと思います。
しかし本当の問題は、その「何か」を起こさないためにどうするか、です。
その点、1人だと、誰に気兼ねなく、とことん安全対策を講じることが出来ます。
その3 危険性が増す時期や悪天候時に山に入らない
私が林業を行う時期を秋~冬に限定しているのは、安全対策の意味もあります。
暑くなると、熱中症、ハチ/マダニ/マムシの被害が出てきます。
さらに台風/大雨などの悪天候も多く、地盤が安定し難いなど、危険な要素が冬よりも増してくるのです。
林業を専業にしている、あるいは冬は雪に閉ざされてしまう地域の方はもちろんそんなこと言っていられないでしょうが、私が最初から兼業を目指したのも、出来るだけ安全に林業を行うためでもあります。
林業シーズン中でも、雨天や強風の時は山に入らず、晴耕雨読を決め込みます。
まとめ
安全に林業を続けるには、総じて言うなら「決して無理な施業をしない」ということだと思います。
自伐型林業は、現行の他の林業と比べて安全と言われています。
それは、小規模で大きな重機を使わないから重大事故に繋がりにくい面もあると同時に、自営業者が多く、固定費やノルマに縛られることも少なく、無理なく施業しているからでもあると思います。
コロナが流行しだした頃、マスコミでは「正しく怖がる」という言い方をよくされていました。
林業も同じだな、と感じました。
必要以上に怖がる必要はないですが、正しい知識や技術を身につけ、出来る安全対策をきちんとしていく、ということに尽きます。
林業における安全管理は一般企業におけるリスク管理と同じです。
事業継続を脅かすリスクを低減するために必須です。
何しろ身体が資本の仕事です。自分の替えはないのですから。
それではまた次の記事でお会いしましょう。
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