私はこれまでの人生で多くの失敗をしてきました。
あの時こうしていれば・・・
あの人にこう言っていれば・・・
後悔先に立たず。
まあ、人生の振り返りは改めてするとして、
人生は失敗を糧に、より良い人生を歩むこともできます。
しかし林業においては、1つの失敗が、文字通り「命取り」になることだってあるのです。
私は林業においてもこれまで数々の失敗をしてきました。
今回はその話をしたいと思います。
CONTENTS
林業における失敗
林業において起こりうる最悪の失敗は、おそらく事故にあって亡くなってしまうことだと思います。
過去の連載でも触れたように、幸いなことに私はこれまで林業現場でケガらしいケガをしたことがありません。
↓過去の記事
【木曜更新】オットの連載 小さな林業の始め方 ⑥ 林業の危険と安全対策の話
事故の次に大きな失敗は、山を壊してしまうことではないでしょうか。
私は、これも幸いなことに山作りにおける素晴らしい指導者に恵まれたおかげで、山を壊すことなく林業を続けています。
↓過去の記事
【木曜更新】オットの連載 小さな林業の始め方 ① 大切にしてきた2つの助言
それではどのような失敗をしてきたのか。
初期の頃の失敗
林業を始めた初期の頃多かった失敗は、
- 木が狙った方向に倒れない
- 木を伐った際に根本から裂けてしまう
- 枝払いや玉切りの際にチェンソーのバーが木に挟まってしまう etc…
主に、チェンソー技術の未熟さ、知識や経験の不足に起因するものでした。
経験や知識を積んでいくと、やがてこれらの失敗はなくなっていきます。
やがて慣れてくると
やがて慣れてくると多くなってくるのが、立木(山に生えている木)や機械の損傷。
これは主に道作りでユンボに乗っているときに起こります。
私はこれまで、数多くの立木をユンボのバケットやアームで傷つけてしまいました。傷つける度に「あぁぁ~!」という虚しい叫び声が無人の山に響きわたります。
多くの立木たち、そして山主さん、ゴメンなさい。
そしてさらに「イタイ」のがユンボの損傷です。
林業を始めて3年目までに多かったのが、ユンボの脇腹を山側法面から飛び出た根に当てて、ボディを凹ませてしまうことです。これは結構ショックです。
精神的にイタイだけでなく、修理代など、経済的にもイタイのです。
この立木を傷つけることや機械を損傷してしまうことには、後から振り返ると、ある共通点がありました。
それは、その多くが15時以降に起きているのです。
私はこれを、「魔の15時以降」と呼んでいます。
なぜ15時以降に発生することが多いのか。
その前に山での1日を振り返ってみましょう。
山での1日
私は今でも山に入る際は毎回、結構緊張します。
道は崩れていないか、ぬかるんだ場所はないか、山の様子に変わったことはないか・・・あらゆるところに神経をとがらせます。
その日の現場に到着し、始業の準備を終えたら、作業に入る前に、必ず山に一礼します。
その日の無事を祈願するとともに、山の恵みに感謝するのです。
もともと私の師匠がやっているのを真似て始めたのですが、今ではこの「儀式」をしないと落ち着きません。
こうしたやや厳かな儀式のあと、慎重にその日の段取りを組んで、作業を始めます。
道づくりの場合、午前中は、その日に道を入れるルートに沿って支障となる木を伐っていくこと(先行伐採)が中心になります。
先行伐採とその後処理を一通り終えたら、ユンボで道作りを始めます。そして、ちょうど体がこなれた頃に昼食です。
至福の時です。
短い休憩の後、午後の作業開始。
その日の目標地点を目指して、後はひたすら道作りを続けます。
15時を過ぎると、その日の仕上げに入ります。
ここまでに作ってきた荒道を整地し、路肩を固め、形を整えていく作業です。
ユンボの前後左右の動きも大きくなり、バケットの動きも大きく、早くなります。そして「ノッて」きます。
危ないのはそういう時です。
ランナーズハイ、ならぬユンボハイ?
例えば、長距離のランニングをしていると、いつの間にか疲れを感じなくなり、呼吸も楽になって気分が高揚してくる、いわゆる「ランナーズハイ」の状態になることがあると言いますよね。
同じように、長い時間ユンボに乗り続けていると、まるで自分の手足のように操作できるように感じ、高揚感を得ることがあるのです。
私はこれを「ユンボハイ」と呼んでいます。
「メリメリッ!」と横から鈍い音が聞こえたり(ユンボのボディが凹む音)、「ガチャーン!」とバケットが立木に激しく当たる音が聞こえてくるのは、大抵、この「ユンボハイ」になっているときです。
私は1日に大量の木を伐採した経験がないので分かりませんが、もしかしたら、「伐採ハイ」というのもあるのだろうか・・・
なぜ「魔の15時以降」は起こるのか
おそらく、1つの理由は「疲れ」。
「~ハイ」になるのは、肉体的な苦痛を解放する為に「脳内麻薬」を出しているからという説もありますが、要するに正常な判断が出来ていないのでしょう。
2つ目の理由は「油断」。15時以降になると、ある程度その日の「難しい、危険な作業」は終わっていて、気持ちが緩んでいる可能性があります。
そして最後に「横着」。法面(のりめん)から突き出た根にユンボのボディを当てないようにするには、その突き出た根を事前に切り落とせばいいだけです。
しかし、疲れや油断が重なり、そのひと手間を「横着」してしまうのです。
まとめ
こうしてみてみると、林業における失敗は、林業を始めた初期の頃は、「技術の未熟さや知識・経験不足」に起因し、慣れてくると、「油断」や「横着」に起因することが分かります。
そしてこの「油断」や「横着」は経験を積んだ先に現れるだけではなく、1日の中でも時間帯によって変わることもあります。
私は1人で山仕事をしていると10時や15時の休憩をとらずに没頭してしまうことがままありますが、これも「油断」や「横着」かもしれません。
休憩も大事な仕事の一部ですね。
林業修行を始めて間もない頃、山の師匠のお1人にこう言われたことがあります。
「大きいイタイを経験しない為に、小さいイタイはたくさん経験して構わない」
ある意味で、私はその教えを忠実に守って「小さいイタイ」を多く経験してきたともいえます。そして「小さいイタイ(失敗)」の先に「大きいイタイ(失敗)」があることも肝に銘じてなければなりません。
皆さまも、どうかご安全に
それではまた次の記事でお会いしましょう。
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