前回に続いて、薪を使った石窯コーヒー焙煎の話です。
モノになるまでの試行錯誤の過程をお送りします。
今回はかなりコーヒー寄りの話、しかも石窯焙煎というかなりマニアックな話だということを予めお伝えしておきます。
CONTENTS
石窯自家焙煎を成功させる3つのポイント
石窯自家焙煎に挑戦するにあたって、1つ心に決めたことがありました。
それは、味の妥協をしないこと。
薪を使った手焙煎だからといって、それは作り手の勝手な都合であって、コーヒーを飲む人にとってはどうでも良いこと。
「ここのカフェは景色は最高だけど、コーヒーはいまいちだね」
という評価だけは避けたい。
「石窯焙煎だから仕方ないね」ではなく、石窯焙煎だからこその味、でなければ意味がありません。
ところで、コーヒーの味を決める要素は何だと思いますか?
一般的には、
- コーヒーの生豆の品質 6~7割
- 焙煎技術 2~3割
- 抽出技術 1割
とされています。
(他にブレンドの技術もありますが、ひとまず同じ種類の豆を前提にした場合です)
つまり、良い生豆を使えば、多少、焙煎技術や抽出技術が伴わなくても、70~80点くらいのそれなりに美味しいコーヒーは飲めるということです。
しかし難しいのは、85点以上の高いレベルの美味しさをコンスタントに出すこと。
石窯焙煎では、早い段階で「かなり美味しい」と思える焙煎を実現出来ていました。それゆえに、石窯焙煎には大いに可能性があることも感じていました。
しかしそれはある種「まぐれ的」に出せた味で、納得のいく味が出せる焙煎は何回かに1回だけです。
いかに「再現性」を高めるか。
その試行錯誤の過程で、鍵を握る3つのポイントが分かってきました。
ポイントその1)窯の温度管理
最初に苦労したのが、薪で石窯の温度を一定に保つことです。
石窯焙煎機で1回に焙煎できる豆の量は約400g。
営業用に量を確保するには、それを何回も繰り返すことになります。
その間、窯内の温度を一定に保つため、火を保ち、こまめに薪を補充していかなければなりません。
一度に多くの薪を入れすぎると温度が高くなり過ぎます。
しかし逆に補充するタイミングが遅れると窯の温度が下がり、薪がきれいに燃えず、不完全燃焼で煙まみれです。
加えて、薪は樹種や乾燥具合によっても燃え方が異なります。
温度管理に重要なのは薪の樹種と乾燥度合
最初はとりあえず、山で伐採した広葉樹ならなんでも薪にして、乾燥度合もまちまちのものを使用していました。
しかし、樹種によって、
「着火は良いが火持ちが悪い」
「着火は悪いが火持ちが良い」
「火力が高いの、低いの」
「ハゼるの、ハゼないの」
etc・・・
とまぁ、とにかく様々あることが分かってきます。
経験の中から徐々に使う樹種も絞られてきました。
(今では3~4種類の樹種の組み合わせで使っています)
また木材水分計で含水率を調べたところ、含水率が20%以下であれば、薪に適していることも分かってきました。
ポイントその2)タイミングを計るサイン
コーヒーの生豆は焙煎していくと、最初は薄緑から徐々に白っぽくなり、そこから薄茶色、茶色、こげ茶と、焙煎が進むに従い、色が濃く変化していきます。
一般的なコーヒー焙煎機では、焙煎中に窯内からサンプルを取って豆の色を確認することで、温度調節や焙煎終了のタイミングを判断することができます。
しかし、石窯焙煎ではそれが出来ません。
いや、出来ないことはないですが、その都度、焙煎を中断し、一旦焙煎機を窯から出し、サンプルを取り出す必要があります。
それはいちいち手間だし、豆に激しい温度変化を与えることになるので基本的にしません。
重要な「チャフの溜まり具合」と「ハゼ音」
では何で焙煎の進行度合を判断するかというと、チャフの溜まり具合、さらに最も重要なのはハゼ音です。
チャフというのはコーヒーの生豆に付着した薄皮のことです。
生豆は焙煎していくと中の水分が抜けるのと同時に膨らんでいきます。
「焙煎とは、豆のしわを伸ばすこと」
という名言を残した有名なロースターもいますが、豆が膨らむとチャフが自然に剥がれていき、窯内に徐々に溜まっていきます。
このチャフの溜まり具合で焙煎の進行度合いや、温度が適正かどうかある程度判断できます。
ちなみに、石窯で焙煎すると、遠赤外線効果なのか、豆の芯まで火が良く通り、ふっくら仕上がります。
それが石窯焙煎最大の特徴である、「味のまろやかさ」と、「時間がたっても味が劣化しにくい(焙煎後に豆の状態で保管した場合)」ことにつながっているのではないかと思います。
もう1つのハゼ音とは、焙煎中に豆がハゼることで発する「プチッ、プチッ」という音のことです。
これが石窯自家焙煎における最も重要なサインだといっても過言ではありません。
このハゼ音、全ての豆に共通するのが「2段階に分かれて聞こえてくる」ことです。
俗にいう、1ハゼと2ハゼです。
しかし、豆の産地や種類によってもハゼ方は微妙に異なります。なので、豆のハゼ特性を掴むには何回か焙煎が必要です。
このハゼ音が始まった、終わった、始まってから何秒たった、等のタイミングによって狙った焙煎度合を判断します。
この時、豆と同時に薪がハゼてしまうと、どちらのハゼ音か区別がつき難くなります。従って焙煎中はハゼない薪を投入することが重要になってくるのです。
ポイントその3)コーヒー豆の温度調整
ポイント1で、「窯の温度を一定に保つことが重要」と言いました。
しかし、矛盾するようですが、実は、コーヒー豆が焙煎される温度も一定が良いというわけではありません。
一般的に、コーヒーの焙煎に適した温度は約200度と言われています。
しかし、経験的に分かったことは、最初から最後まで200度で焙煎したら芯までじっくり火が通る前に表面が焦げてしまうのです。
そこで焙煎中の豆に当たる温度を変化させてみることにしました。
その中で、ざっくりと以下のイメージになっていきます。
- 最初は少し低めの温度からスタート
- 徐々に温度を上げていき、200~220度くらいになったときに1ハゼを迎える
- 一旦温度を下げ、ゆっくり1ハゼを持続させる
- 1ハゼ終了後、徐々に温度を上げる
- 2ハゼを迎えたら、再度温度を下げる
- 狙った焙煎度合になるまで続ける
狙った焙煎度合によって、焙煎を終了するタイミングは異なります(焙煎度合によって2ハゼ前に終了することもある)。
いずれにしても、焙煎中に豆に当たる温度は絶えず変えていかなければなりません。
ん??窯の温度は一定のはずでは??
実は、窯の温度を一定にしても、窯の中では場所によって温度が異なります。
温度は火元に近い方が高く、火元から離れると低くなります。
その窯内の温度差を利用して、焙煎機を窯の中で移動させることによって豆に当たる温度を変化させるのです。
このようにして、窯や豆に当たる温度をタイミングを計りながら調整し、狙った焙煎度合に持っていきます。
目指す焙煎度合
コーヒーの焙煎度合は、浅煎り、中煎り、中深煎り、深煎りなど、4段階~7段階くらいに分けられますが、外見上はほぼ色の違いで決まります。
しかし、経験的には、焙煎時間が短いと「尖った」味になり、長すぎると「抜けた」味になるなど、同じ色味でも、時間のかけ方によって変わります。
つまり、「その色味になるまでにどれくらい時間をかけたか」によって味が決まってくるということです。
石窯焙煎では、「豆の色味」をチャフの溜まり具合やハゼ音で”想像しながら”、タイミングを計ることになります。
コーヒーの味は人によって好みは様々だと思いますが、私は、口当たりがまろやかでしっかり余韻も残るのが好きなので、焙煎も常にそこを目指しています。
まとめ
こうしたことは全て、繰り返し焙煎をしていく中で実験データが溜まり、分かってきたことです。
最初のうちは、成功は5回に1回くらい、それが徐々に2回、3回と増え、ほぼ失敗がなくなるまで1年くらいはかかりました。
焙煎の機械も進化しています。
最初は手動だけだったのが、地元の金属切削加工会社に依頼して、焙煎機の回転を自動化する機械を開発してもらいました。
おかげで、焙煎中は火力調整のほうにより注力できるようになりました。
火力が安定したことで、焙煎の精度もさらに高まったと思います。
それでも、100点満点ということはほとんどありません。
例えば梅雨の時期は一旦乾いた薪も水分を含んで扱いにくくなり、焙煎も思うようにいかないこともあります。今も毎回が真剣勝負です。
今回は林業から離れて、つい筆が乗ってしまいました。
今の時期は山に入ることも少なくなり、だんだん林業脳からコーヒー脳に移行しているからかもしれません。
しかし、私のコーヒー焙煎は、薪の特性把握や品質管理にかかっており、それが広葉樹への関心につながっていることもまた事実です。
それではまた次の記事でお会いしましょう。
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