私の現在の職業は何かと問われたならば、おそらくこう答えるでしょう。
”林業家と珈琲(コーヒー)屋”
ちょっと前まではこれを言うのもはばかられたのですが・・・
というのも、どちらも始めてからまだ数年、「その道のプロ」というより、どちらかというと「プロを目指している」感覚に近かったから、ですね。
しかし、それもある意味で甘えになるし、曲がりなりにも林業とコーヒーで飯を食っているので、まあ「林業家とコーヒー屋」と公言してもいいのでは、と最近思うようになりました。
そして、私が関わっている林業とコーヒーには、密接な結びつきがあります。
今回はその話をしたいと思います。
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偶然から生まれたコーヒー屋
今では多い日には50杯以上、自分で焙煎したコーヒー豆を使って、ハンドドリップで抽出したコーヒーやカフェオレなどを提供しています。
しかし、このコーヒー稼業も、偶然生まれたものだったから、不思議です。
偶然その1)そこにすばらしい場所があったから
私は林業修行1年目の終わり頃に今の山主さんと出会い、山をお借りして林業を始めることになりました。
(その辺りの経緯は過去の記事をご覧ください↓)
【木曜更新】オットの連載 小さな林業の始め方 ③ 山は買うべき?借りるべき?
そして2年目のある日、山の施業計画について山主さんと話をしようと山主さん宅を訪れた際、
「それじゃ、そこの離れの小屋で話するか」
と案内されたのが現在お借りしているカフェスペースです。
まず、圧倒されたのがその立地。崖の上に立っており、眼下には雄大な四万十川。
まさに四万十川を見下ろす絶好のロケーション。
そして建物も小屋というには立派過ぎるくらいで、キッチンやトイレも完備している。
聞くと、以前は山主さんが友人、知人を呼んでここでホームパーティーを開催することも多かったが、今ではあまり使わなくなってきてるとのこと。
実は現在住んでいる四万十市を初めて訪れた際、四万十川を見ながらコーヒーでも飲めたら最高だし、当然そのような場所はあるだろうと期待していました。
しかし、探しても見つかりません。地元の人に聞いても、「そういえば、前に1軒あったんだけどね、いつの間にかやめちゃったね」と、あまり関心もない様子。
今、眼前にあるのが、まさに思い描いていたようなカフェのスペースです。
即座に
思わず声に出してしまいました。
この時点では、自分達でカフェを始めるというよりも、客としてこういうカフェに来たい!!という願望から自然に発した言葉です。
ところが意外な答えが
「だったら、あんたらで何か始めたらいい」
偶然その2)そこに石窯があったから
その建物には景色以外にも目を惹くものがありました。
それは自家製の石窯です。
これも家主さんがホームパーティーでピザを焼いて楽しむために作ったもので、自家製にしてはかなり本格的なピザ用の石窯です。
とはいえ、カフェを始めるにしても、ここでいきなり商売としてピザを焼くのはさすがにハードルが高い・・・
しかしまた、この立派な石窯を、ただのオブジェにしておくのも、もったいない。
もしや、ここでコーヒーを焙煎できるのでは?
コーヒーを焙煎した経験もないのに直感的にそう思ったのです。
そして調べてみると、なんと「石窯コーヒー焙煎機」というものを作っている人がいらしたのです。
↓過去の妻のブログ
そんな直感や偶然の出会い、まさに「天啓」としか言いようのない、カフェ経営に向かう流れがありました。
偶然その3)そこに薪があったから
実は、カフェを始めようとする以前から、たまたま薪作りをしていました。
最初から使う目的があったわけではありません。
住んでる借家は古民家ですが、事情があって薪ストーブは導入できませんし、毎日がキャンプみたいな生活なので、あえて自然の中でキャンプをしようという気も起きにくい。
なのになぜ、私がはっきりした目的もないのにコツコツ薪を作っていたか。
山をお借りして林業を始めた当初、現場には広葉樹しか生えていませんでした。
広葉樹には建築用材としての需要がないので、丸太のままでは杉、ヒノキのようには商品になりません。
広葉樹を現金化する手っ取り早い方法としては、製紙用の原材料やバイオマス発電所の燃料として売ることです。
買取価格は1トン当たり6000円。軽トラ一杯分でいえば、2000円程です。
安いのでほとんど利益にはならないですが、山に放置するよりはましだと思い、近くのバイオマス発電所に売りに行ったこともあります。
ただ、バイオマス発電所ではどんな材も大型のグラップルで一気にガバッと掴んで、あとはただチップにされて燃やされるだけです。
私はその光景を見て、むなしくなりました。
何年もかけて育った木を伐採して苦労して搬出しても、ただ一瞬にして燃やされてしまう。
バイオマス発電所の是非については様々な意見がありますが、私はその社会的意義や問題点を指摘する前に、木材のこのような使い方は心情的に「もったいない」と思ってしまったのです。
同じ燃やすにしても、薪であれば、ゆっくり燃えて、ゆっくり灰になります。
その火は少なくとも人を暖めたり、癒しを与えたりできます。
木の一生を終えるにはこちらのほうがふさわしいと考え、以来、コツコツと薪作りに励んできました。
薪は一定の期間、天然乾燥させなければ使えません。
目的もなく作っていた薪のストック。
これがなければ、石窯自家焙煎コーヒーは生まれなかったかもしれないのです。
最初は苦労の連続
こうして3つの偶然が重なり、カフェ開業に向けて、薪を使った石窯コーヒー焙煎に挑戦することになります。これも林業を通じて生まれたご縁です。
しかし、初めから全て順調だったわけではありません。
まず、お手本がありません。手焙煎で行うための石窯焙煎機は入手できたものの、実際に営業で使った例は全国探してもありません。
とにかく自分でいろいろ試してやってみるしかないのです。
その辺りの試行錯誤については、次回お伝えします。
それではまた次の記事でお会いしましょう。
▶ 【木曜更新】オットの連載 小さな林業の始め方 ⑱林業とコーヒーと(後編)