地元・高知

【高知情報】ポール・スミザーさんの講演を聴いてきました(10/19)

10月19日、高知市で開催された、「ポール・スミザー」さんの講演会に出かけてきました。

主催は、NPO84プロジェクト。

高知県にとってのマイナスの数字として見られてきた「森林率84%」という数字を、逆に「県土の84%も森がある!」というユタカな数字として捉えなおすために、「84はちよん」という高知県のユタカさを一言で表すデザインをもとに、「84ロゴ」を広めていく活動や、新しいユタカさを生み出すレクチャー事業、出版事業、商品開発事業などを行っています。

 

さて、ポール・スミザーさんは、公園・空間・ガーデンなどを設計する、英国出身・日本在住のランドスケープデザイナーです。

テーマは「森の暮らし方」というざっくりとしたものでしたが、その分、力を抜いて聴ける面白い話でした。

なんといっても日本語が素晴らしく流暢でユーモアがあり、ほとんどの日本人より日本語の講演が上手だと思います。

CONTENTS

ポール・スミザーさんの講演のポイント

さて今回のスミザーさんの講演のポイントをいくつか、前後の関連性のない並べ方ですが、まとめておきたいと思います。

イギリスは自然保護国ではない(意外)

SMITHER「イギリスといえば、自然に優しいと思うでしょ?全然違います」

のっけから、へぇぇと思う言葉。

あまりはっきりとした根拠はないにも関わらず、イギリスって、いや欧州って「ナチュラルトラスト」「自然保護」みたいなイメージあります。

イギリスについて考えてみれば、ハイドパーク、リージェントパークなどの大規模な公園がロンドンにあるし、キューガーデン(王立植物園)も広大だし(132ヘクタール!!!)、大都市だけど自然豊かとわたしも思っていました。

ところが。

SMITHER「ヨーロッパの自然っていうのは、きれいな公園がある。それだけです」

 

えっ

 

見せてくれたのが、従来のイギリス(スコットランド)の写真。

知ってます。わたしは1998年ごろイギリスに滞在していましたが、これを見るとみんな

「わーイギリスぽい風景💛」

と喜んでいましたもん。いかにもイギリスらしいものだと思っていました。

あまり木や草が生い茂ってなくて、見晴らしのいい、なだらかな平原。羊が数えられる視界の良さ。

ところがスミザーさんによると、本来のイギリスの姿はこちら。

SMITHER「木の苗を植え、芽を食べてしまう動物をこの領域ではないところに移動させた結果、2000年前の原生林が戻ってきた」

ウソ!!
あれイギリスじゃなかったん!!

イノシシは宝である

日本の田舎では、イノシシは害獣に分類されます。
せっかくの畑を荒らすことはもちろん、人を襲うこともあるすらありますしね。

田舎では顔を合わせればイノシシの話をしているといっても過言ではありません。

しかし実は、そのハナで地面を掘り返してくれるイノシシの行動は、森にとって不可欠なものであり、それによっていろんな種子が移動したり、影響しあったりして、自然を発展させている。

本当は、「害虫」とか「害獣」なんて動物、一つもないんですよね。

日本の自然環境はそれだけで外国人を惹きつける

日本のように、イノシシやらサルやらクマやらがうろうろする、そんなワイルドなレベルの自然は実はとても貴重なのだそう。

SMITHER「ヨーロッパに、こんなワイルドな自然はない。それだけで、外国人は喜んでやってきますよ」

と。

え、観光促進のクールジャパンとか必要なかったんでしょうか。

 

ちなみに、ベルギーには最近「狼が戻った!」といって、なんだかとても喜ばれているそうです。

自国の良いところって、本当に見えてないものですね。

耕すのは本当に良いことか?

話は変わりますが、農業で当たり前の「耕す」という行為。

耕すって、なんかすごく勤勉で、滋味あふれる行為というイメージがありますよね~

やっぱり耕してなんぼでしょう。うん。

 

SMITHER「耕す必要ないね」

 

えっ

 

なぜなら。

土の中には様々な菌があり、さらにその菌たちがネットワークを持つことで、互いの強みを発揮し、土を良いものにしている中で。

耕す=クワを振り下ろす、ということは、その地中の菌や、それらのネットワークを、破壊してしまうんだそうです。

英語でいえば、「No dig」、耕さないという考え方。

ガシガシ耕して掘り返さなくても、土の表面だけをそっといじって、そっと種を置く。
それでいいんだそうです。

ちなみに、土というのは掘り返すことで二酸化炭素を排出するので、

SMITHER「たくさんの農家が耕すのをやめたら、温暖化も改善しますよ」

とのこと。

そことそこがつながっているのか・・・

雑草は抜かないで段ボールを置け

さて、耕すなとはいっても、気になるのは雑草。

田舎では顔を合わせれば雑草の話をしているといっても過言ではありません。

抵抗なく薬をまく人もいれば、バリバリ刈り取ったり、掘り返して抜いたり、やり方は様々。

SMITHER「雑草を掘り返して抜いていたら、永遠に生えてきます。雑草が好きなんですね」

・・・

脱力感・・・!!

 

じゃどうするか。

ここで話に登場したのが、なんと唐突だけど段ボール

雑草の上に段ボールを敷き、遮光することで、その成長を止める。
その上にバーク堆肥を敷いて、種をまく(近くに自生している、多年草がおすすめ)。

すると、雑草は光が当たらないから、段ボールとともにいずれ土に返っていき、何もしなくても新しい土地が誕生するとのこと。

↑スミザーさんが手がけた公園の敷地。どんだけ段ボール使ったんだろう・・・

 

SMITHER「アマゾンとアスクルの段ボールはコスト削減で薄すぎるのでダメ」

 

みかんとか飲料水とか、重いものを入れるヤツが良さそうですね。

わたしは個人的に、「段ボール、え、それって楽でいいじゃん!!」とすごく気に入りました。

あまり聞いたことがなかったですが、意外にメジャーな手法なんだそうです。

理想の森は「サバンナ」

まとめていうと、スミザーさんの考える理想の森は、

SMITHER「森と草原の中間のような、森」

とのこと。

下の写真はスミザーさんがデザインを手がけた森。

まず、右のほうの赤い丸が、もともとの森のすがた。日本でよくある、同じ種類の木をたくさん植林した森ですね。

一方、左の青い四角の部分が、スミザーさんが手を入れた場所。
違いがわかりやすすぎ!!
確かに左は草原に近い・・・

理想の森からは、林業のための木材も出せるけれど、そのほかに

  • 人が歩いて楽しい
  • 動物が住みやすい
  • ハーブや野草がたくさんとれて、それも経済を生み出す

一言でいえば、

SMITHER「可能性が高い森になっていきます」

まとめ 

今回の講演を聴いて、思ったことを2つ、まとめ。

① なんにせよ、わたしたちは思い込みが多い

日本に良いものがあるのに、それを利用せずに海外から取り入れてばかりいるとか、欧州より日本のほうが自然保護の点で劣っているとか、勝手な思い込みをしていることが本当にたくさんあるんだなというのが、今回の一番の気づきでした。

ちなみに日本には「サクラ、コナラ、マツ」など、良い材がいくらでもあるのに、使おうとせずにアメリカあたりから「チェリー、オーク、パイン」などの材を輸入することに、スミザーさんは失笑していました。

同じ樹種を英語で読んでるだけ!!

 

このあたり、「誰もが同じ勘違いをしている」というこの本を思い出しました。

ここ数十年間、わたしは何千もの人々に、貧困、人口、教育、エネルギーなど世界にまつわる数多くの質問をしてきた医学生、大学教授、科学者、企業の役員、ジャーナリスト、政治家―ほとんどみんなが間違えた。みんなが同じ勘違いをしている。本書は、事実に基づく世界の見方を教え、とんでもない勘違いを観察し、学んだことをまとめた一冊だ。

② 理想の森と林業の共存

林業を志すオットからすると、スミザーさんの理想の森については異論ないけれど、そこで果たして林業ができるか?という、「理想の森と林業の共存」については、すぐに答えが出ないもののようでした。

それでも、スミザーさんが林業の直接的従事者でないからこそ、興味深い点が多々あったようです。

 

主催の84プロジェクトさん、スミザーさん、ありがとうございました。